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松坂大輔が怪物でいることをやめた夜。

2021/10/20

雑記・備忘録

特にこの日でないといけない理由はなかったけれど、諸事情の都合とうまく合致したのでチケットをおさえていた、2021年10月19日。
結果的にこれだけの意味がある試合になろうとは、購入時は微塵も予想していませんでした。


松坂大輔引退試合。


松坂大輔という投手の思い出を語ろうとすると、どこまで膨大になるかは我ながら想像もできません。

彼が特別な存在として野球ファン、いや日本国民に認識されたのは、98年の甲子園大会から。…と勝手に決めてしまっても、恐らくそれほどの異論は出てこないのではないでしょうか。

当時、自分は中学3年生。
自分より年齢体格精神とも大人の面々だけが集う崇高な戦いとして、「高校野球」を観ることができた、自分にとって人生最後の年。松坂大輔という男が輝きを放ち始めたのは、そんな年でした。

もちろんもっと前から輝いていたのでしょう。ただ、この年この夏に彼が放った光は、日本全国にいるすべての人々がその眩さに気付けるほどに、あまりにも明るく強く、そして美しかった。

当時の常識をはるか超えたストレート、スライダー、無尽蔵のスタミナ。理解を超えた、説明ができない存在に対して古来より人々がそうしてきたように、あの時代の我々凡人が彼を的確に表現するために、彼をこう呼ぶようになりました。


「怪物」。


それほどまでに圧倒的。それが松坂大輔でした。


しかし、そこまでであればまだ稀に見る好投手までの存在でした。それでも他の逸材と違い、松坂大輔の光は、野球ファンとその他の人々の枠を超えて確実に日本中に届いていました。あまりにもわかりやすく、ストーリーの主人公感を備えていたから。


準々決勝でのライバル校の対決は延長16回に及ぶ死闘。それを一人投げ切る。

準決勝、死闘の疲労でマウンドを仲間に託すも、力投及ばず終盤まで劣勢。いよいよここまでか、という8回6点差から打線が奮起して2点差。その凄まじい追い上げに乗せられるように、また自分もその勢いを加速させられるように、腕のテーピングを自ら剥がして9回のマウンドへ。そこで生み出したチームの勢いはもはや止まらずサヨナラ勝ち。

そして決勝。ノーヒットノーランで頂点に辿りつく。

ライブで目の前で紡がれる、彼が主人公の物語。創作物では逆にできすぎで採用できないような展開を、松坂大輔は我々に魅せてくれました。


プロ野球という日本で最高峰の舞台でも、初年度から減速せず進む物語。

デビュー戦155キロ、天才・イチローとの初対決で3連続奪三振。

変わらず理解を想像を遥か超えていく彼のことは、怪物と呼び続けるしかありませんでした。1年目でも止まることが無かった物語は、海外に舞台を移したりしながら続いていきました。


ただ怪物といえど、戦い続けいつまでも無傷というわけにはいきませんでした。
蓄積していく小さな傷。それがだんだんと大きく広がり、怪物の身体を蝕んでいく。
そして遂に、戦うための動きを彼から奪いました。決断をすべき時がきました。
怪物としての死に場所は、故郷ともいえる所沢を選んでくれました。
これには本当に感謝しかありません。
そして10月19日、怪物は最期を迎えました。


自分が彼を好きな理由はいくつもありますが、そのひとつに笑顔があります。

とにかく笑い方がいいです。正しい笑顔の例みたいな、満面の笑み。心の底から笑っているあの顔。無邪気で無防備な感じ。あはは、という声が静止画でも聞こえてきそうな。小学校の教室で、馬鹿話をしている男子がする笑い方。

怪物と呼ばれ、ともすれば孤高になり得るほど圧倒的な能力を持つ男が、あんなに屈託なく笑うことに驚きました。

きっと、自分が特殊な存在という意識が薄いのでしょう。
まわりが怪物とかいうけれど、当人は楽しいから野球やって、楽しいから笑うだけの根っからの野球少年。そんなギャップも本当に魅力的でした。

だからこの日、涙を流すシーンは悲しかったです。それ以上にほとんどの瞬間をあの笑顔でいてくれたことが本当に嬉しかった。

大好きな野球ができなくなる悲しさ、もっとうまく投げたいのに投げられない悔しさ。野球少年だから、そんな気持ちもストレートに出したのかもしれません。そしてその感情以上に、仲間の声や顔が嬉しかったのだと思います。あとは、野球楽しかったなー、って感じだったりするのかも。


2021年10月19日、松坂大輔はプロ野球選手でいることをやめました。
それはすなわち、怪物でいることをやめたことにもなります。

でも後者は多分なりたくてなってたわけじゃないと思うので、余計な荷物がなくなったくらいの感覚かもしれません。彼の場合、そもそも重荷とすら思っていなかったかもしれませんが。

怪物をやめた松坂大輔。
よく笑う野球が大好きな男。
ただの野球大好き少年。

年齢を考えて少年という表現は微妙かもしれませんが、なぜでしょう、どうしても野球中年より野球少年のほうがしっくりくる。これもまた、凡人の理解を超えた怪物たる由縁でしょうか。


松坂大輔という怪物のおはなしは、いったんここでおしまいになります。


この先はもう怪物という存在で、ではないでしょうが、松坂大輔という野球少年のおはなしは、きっと形を少し変えてまたはじまります。できればその舞台にはまた所沢を選んでもらえれば幸いです。

いったん少し休むようなら、じっくりゆっくりこころゆくまで。
でも、舌の根乾かぬうちから笑顔でバット振り回してそうなんだよなあ。
とにかく、笑顔でいてくれればそれでいいです。


野球少年がつくる野球を、いつか観れることを楽しみにしています。
野球大好きな少年がつくった野球なんて、観てるだけで楽しいに決まってますから。



またねー。

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